2022年6月21日研究会報告

こんにちは!山﨑です。

 

2022年6月21日研究会報告
 6月21日の研究会は、「連続講演 三島由紀夫『近代能楽集』全8作を読む/観る/語る」の第1回でした。この連続講演では、毎回、三条会主宰・演出家の関美能留氏をお招きして、『近代能楽集』所収の戯曲を一作品ずつ観劇し、意見交換等を行っていきます。
 今回の作品は、三島由紀夫『近代能楽集』の第1作目、「邯鄲」。
 まず、関さんが演出を担当された「邯鄲」の録画を視聴し、その後、参加者の質問にお答えいただきました。
 「邯鄲」は、能楽の「邯鄲」を、三島由紀夫がリメイクした作品です。戦後間もない日本が舞台になっており、人生に絶望した青年・次郎が、邯鄲の枕で眠り、夢の中で様々な栄華を体験します。しかし、青年は、これを全て冷たくはねつけてしまいます。怒った邯鄲の精霊は、青年に毒薬を飲ませ、殺そうとします。青年はこれを拒絶して「生きたいんだ!」と叫んで夢から覚め、故郷で乳母とともに生きていくことを決心する、というお話です。

 関さんが演出された「邯鄲」には、衝撃的な演出が多数あり、それについて質問が多数出ました。
 例えば、舞台装置についてです。関さんが演出された「邯鄲」では、緩衝材で満たされた巨大なプールが壇上に設置され、その中央には浮島のように正方形の舞台が置かれていました(プールは腰のあたりが埋まるほど深く、関さんによると、これを満たすのに4トントラック約3台分の緩衝材が必要になったそうです)。夢の中の登場人物は、緩衝材のプールの中に潜み、出番になると飛び出して、主人公がいる中央の舞台に上がってきます。そして、退場する際は、水の中に沈んでいくように、緩衝材の中にすっと消えていきます。普通の演劇では見たことがない演出で、とても衝撃的な光景でした。
 関さんはこの演出について、「夢の登場人物がドアを開けて出てくるというのはすごく冷める。『え、そんなところから』という場所から出てきてほしかった。だから、緩衝材の中に埋まっててもらって、そこから出てきてもらった方が、夢の感じが出るかなと思った。」と語っていました。
 他にも、中島みゆきさんの楽曲を使った意図や、小道具として出てくる携帯電話を実物ではなく、平らな積み木によって表現していた理由などについても質問が出ました。
 また、このような「邯鄲」の演出についてだけでなく、関さんの演出家としてのこだわりについてもお話を聞くことができました。
 特に印象深かったのは、「自分の一番お気に入りのアイディアは反映させるな。」という先輩の言葉を大事にしており、舞台上を100%の完成度のもので満たすのではなく、余裕をもって作れるようにしている、というお話でした。
 どれも普段の講義などでは聞くことができない、貴重なお話ばかりで、とても刺激的な会になったと思います。


 個人的には戯曲を読んだときにイメージできなかった部分がたくさんあったので、「この場面、こんな感じなんだ!」と興奮しながら観劇していました。次の「綾の鼓」も、どのように演出されているのか、とても楽しみです。

 ※第二回の講演は7月26日(火)に行います。